キリスト教からイスラム教徒へ〜フランス人改宗ムスリマ・マリヤムさんの改宗体験記
アッサラームアライクム!
今回は、日本に暮らすフランス人ムスリマで、イスラームに改宗してから8年目のマルヤムさんに、お話を伺いました。
イスラームとの出会い
ーまず初めに、マルヤムさんとイスラームとの出逢いについて聞かせてください。
フランスは私が住んでいた当時から国民の8~9%はムスリムだったので(今は更に増えています)、イスラームは比較的身近な存在でした。
中学・高校にはムスリムの友達もいて、ラマダーン月や食に関する制限など一般的なことは知っていましたが、自分は小さい頃からキリスト教徒だったのに、イエス様がイスラム教・キリスト教に共通した預言者であることや、同じように唯一神を信じていることすら知りませんでした。
ーその後、どのようにしてイスラームに導かれたのでしょうか。
大学生のときに日本の勤め先でモロッコ人ムスリムの同僚(後の夫)に出逢ったことをきっかけに、イスラームについてもっと知りたくなりました。
同時に、自分の宗教として付き合ってきたキリスト教についてよく分かっていないことが多いと気づき、改めて調べ始めました。
同僚と宗教についてイスラム教・キリスト教の観点から色んな議論をしましたが、その度にいつも理論的に負かされてしまって悔しい気持ちでした。
両親にキリスト教についての質問をしても中々納得できる答えが得られず、ならばと新約聖書を全編読んでみて、更に旧約・新約聖書の起源について調べたところ作家が不明なものが多いことがわかって大きなショックを受け、書かれていることが確かな情報だと信じるのが難しくなりました。
この時点で「逆に、イスラームは事実に基づいているなぁ」、更に「イスラームを実践する周囲のムスリムたちも優しく良い人達だなぁ」と、イスラームに好印象を抱いていました。
それでも、女性の扱いやお祈りの義務、食事の制限などに関しての元々イスラームに対して抱いていた偏見、つまり面倒そうなイメージが拭えずにいました。
元々のキリスト教の信仰が揺らいでしまったこともあり、それから1年ほどかけて、色んな宗教について勉強しました。その間も毎日神さまに祈ってはいたけれど、すでにキリスト教徒として唱えてきた祈りの言葉(神様だけでなくイエス様と精霊に対しても祈りを捧げる)はもう言えなくなっていて、「わたしと世界をつくった神様に」、「イスラームか、もしくは他に正しい宗教があるのならそれに辿り着けるよう導いてください」という風にお祈りしていました。
その頃は(「私はイスラームに改宗する気はないから」と事前に伝えた上で)既にムスリムの夫と結婚していたけれど、宗教が違っていると関係がうまくいかないことも多く、どうやったら解消できるのだろうかという悩みもありました。
改宗のきっかけ
ーイスラームに改宗した直接のきっかけは何でしたか?
ある日、朝起きたらやけに心身が澄んで落ち着いていて、自分がムスリマだと素直に思えたのです。それまでもイスラームの正しさを徐々に自分の中で理解していながらも改宗に伴う色んな変化を想像して踏みとどまっていた状態だったけれど、アッラーが立ち向かう力をくれたのだと感じました。天国を目指すならムスリマになるしかない!と、覚悟ができました。
でも、私は完璧主義者だから、自分がムスリマだと言う前にお祈りなどきちんとできるようにならなければと思ったので、この心の変化については何ヵ月もの間誰にも言わなかったし、お祈りの仕方などイスラームの基本もインターネットで動画などから独りで学びました。
シャハーダ(ムスリムになるための信仰告白)の必要性は当時知らなかったので、後から考えると、初めてのお祈りの中で無意識にやっていたということになりますね…笑
ー改宗にするときに悩んだことはありましたか?
お祈りのことと、仕事のことです。
当時は接客業だったので時間通りお祈りをすることができませんでした。服装もイスラームに抵触しないものを自由に選ぶことができなかったし、ハラームな食べ物も扱うお店だったので、ムスリマとしてそこで働き続けるのは難しいなと思い、しばらくして辞めました。
改宗して1年くらいしてから、気持ちが追い付いてヒジャブも身に着けるようになり、そうすると更に仕事を選ぶのが難しくなりそうだと感じて、それなら自分でビジネスをしようと方向転換をしました。
それから、改宗した当時は両親や兄弟の反応も不安で、すぐには言えませんでした。
母が自宅にやって来た機会にムスリマになったことを伝えたら、キリスト教徒である母がショックを受けて「どうしてもっとキリスト教について聞いてくれなかったの」と言われました。何度も、色々な質問したのに納得できなかったんですけれどね…。
父は否定的でなく、自分の道を選べばいいと言ってくれました。
兄・姉はイスラームの女性の扱いに偏見があったのと、夫に合わせて改宗したのだと思ったようで、無理をしていないかと心配されました。自分の意思で改宗したし、問題なくやっているのだと話をして徐々にわかってもらいました。
初めは、家族に食べられないものやお祈りの時間を伝えたり、ムスリマになったから一緒にできなくなったことに直面するとすごく気を遣いました。
家族もイスラームについて知らなかったので、2年ほどかけて徐々に理解してくれて、今では帰省する時に食事をハラール対応にしてくれたりもします。
改宗後の変化
ー改宗前と改宗後の自分と周りの変化はどんなものでしたか?
キリスト教徒だった時よりも真剣にお祈りするようになりました。
そして、前よりも嘘をついたり悪いことをするのを意識して避けるようになりました。
また、改宗後は負担ではなくハサナート(善い行いをすると与えられる徳)を考えて行動するようになったので、例えば以前は全て夫と平等に分担していた家事を、進んで自分が多くやろうと思えるようになりました。
それから、夫婦でイスラームを大切にするようになったおかげで、夫もお祈りの時間に乱れがなくなりました。
ー改宗してから大変だったことはありましたか?
最初は、色んなことを一気に変えようとしすぎて、それがしんどかったです。
イスラームに抵触する好きな食べ物・観たいドラマ・聴きたい音楽などを全てきっぱりと止めることはできなくて、数年かけて少しずつ減らしていくように変えた結果、うまくいきました。
一番身近なムスリムである夫が、色んな事を強制したり急かしたりせず、逆に無理なくゆっくり納得していくようにと伴走してくれたのも有難く、支えになっていました。
ー改宗してよかったことは何ですか?
人生の目的が変わったことです。以前はキリスト教徒として、イエスについて信じるだけで天国に行ける・努力は必要ないと思っていました。
でも、人生は死後の永遠に比べたら本当に短いものだし、この人生を終えた後の方が大事だと理解した結果、「天国に行くためにより善く生きよう」というモチベーションが高くなりました。
それから、以前はよく知らない人を上から目線で自分が勝手に判断してしまうことがあったんですが、それが無くなりました。
ヒジャブを着けていると、自分の言動が人々のイスラームのイメージに結び付くような責任感が芽生え、どこで誰と話す時でも礼儀正しさを心掛けるようにもなりました。
ムスリマとしての今と、これからのこと
ーイスラームへの信仰が高まった経験があれば、ぜひ聴かせてください。
「イスラームは真実だ!」と確信した出来事がありました。 それは、悪夢をみた時のことでした。 夢の中で突然、怪物が私の腕を掴み、動こうとしても口を開こうとしてもできずパニックになりました。
咄嗟に“أَعُوذُ بِاللَّهِ مِنَ الشَّيطَانِ الرَّجِيمِ(A'udhu billahi minash-Shaitan nir-rajim)”、つまり「私はアッラーに、呪われたシャイターン(悪魔)からのご加護を乞います。」というイスラームの祈りを唱えようとしました。初めは口が動かなかったのですが、何度も言おうとしているうちにこの言葉を繰り返すことができて、そうするとすぐに怪物は消え去り、目が醒めたんです。
きっとジン(精霊や妖怪、魔人など一群の超自然的な生き物)が私の眠りの中に入って来たのでしょう。アッラーの御名前を唱えるだけで、これを追い払うことができたのです。
この経験によって私のイスラームへの信仰が更に強まりました。しかも、一度きりではなく、これまでに二度同じ経験をしました。(預言者ムハンマド様ﷺが、悪夢や不思議な体験については他人に語らないようにと仰っていますが、この度は匿名かつ私のイスラームにまつわる経験についてお伝えするという目的なので、この出来事を共有しました。 )
ームスリマとして大切にしていることは何ですか?
お祈りの時間、家族。そしてアッラーに謝ることです。気が付いていないところでも、毎日何らかの間違いをしている気がするので。
最近は、日々のお祈りがちゃんとできているだろうか?とか、もっと集中したいなぁという気持ちが強いです。
ー今後、どんなムスリマになりたいなという理想はありますか?
自分の宗教であるイスラームについて、もっと知識をつけたいです。誰かに質問されたときに、きちんと答えられるくらいに。
「自分がこう思ってるから~」とかじゃなくて、イスラームにおいて明確な根拠があるのだと説明ができるようになりたい!
それから、ムスリマとして家族にもっと優しくしたい、家族の扱いをより良くしたいなぁと思っています。
インタビューを終えて
マルヤムさんの物語は、宗教や文化の違いを越えて、「自分自身で考え、選び、行動する」ことの大切さを私たちに教えてくれます。そして、改宗という大きな決断の裏には、静かな祈りと、日々の小さな選択の積み重ねがあるということも。
信仰とは、「よりよく生きるための選択」である──そんなことを感じさせてくれるお話でした。
(2025.6.5 / 聞き手・編集 Nanami)
【語り手プロフィール】
マリヤム
フランス出身で、日本に住んでいる改宗したイスラム教徒です。
自分の宗教と家族に時間を捧げるよう努めており、私の人生に多くの平和をもたらしたイスラム教について他の人たちに興味を持ってもらえるように願っています。
料理をすることと新しい言語を学ぶことが好きです、よろしくお願いします!