イスラーム用語集
イスラームにまつわる単語は、基本的にアラビア語です。
7世紀初頭にクルアーンが啓示される中で、当時のアラビア語には無かった語彙や概念も多く誕生し、人々のなかに浸透していきました。
イスラームとアラビア語は、切っても切れない関係の中にあるのです。
今でも世界中のイスラム教徒が日常会話の中で使っている、アラビア語だからこそしっくりくる…そんなイスラームの用語を、日本語話者にも分かりやすいようにまとめてみました。
ア
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【直訳】
神(唯一の神)【意味】
イスラームで信じられている唯一の神様。慈悲深く、すべてをつかさどる存在。【補足】
「アッラー」はアラビア語での呼び方で、日本語でいう「神さま」にあたります。【例文】
「すべてのことはアッラーの思し召しにゆだねられている。」
「アッラーに感謝して毎日を過ごすようにしているよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
アッラー(الله)はクルアーン中で約2700回登場します。開端章(Al-Fātiḥah)(1:1)
“بِسْمِ ٱللَّهِ ٱلرَّحْمَـٰنِ ٱلرَّحِيمِ”
「慈悲あまねく、慈愛深きアッラーの御名において」
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【直訳】
呼びかけ【意味】
礼拝の時間を知らせる詠唱。【補足】
モスクから一日に5回聞こえてくる、人々を礼拝に招く呼び声です。【例文】
「アザーンの声を聞くと、心が落ち着きます。」
「アザーンを聞いて礼拝の時間だと気づきました。」【クルアーンにおける登場箇所】
合同礼拝章(Al-Jumuʿah)(62:9)
“إِذَا نُودِيَ لِلصَّلَاةِ مِن يَوْمِ ٱلْجُمُعَةِ”
「金曜日の礼拝の呼びかけがされたときには…」
※「アザーン(اذان)」という語そのものは登場しませんが、「呼びかけられた(نُودِيَ)」という形で礼拝の招集を意味します。
イ
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【直訳】
礼拝、奉仕、仕えること【意味】
「アッラー(SWT)のために」という意図に基づいて行う、あらゆる行動。【補足】
日常生活でも、正しい意図で行えばイバーダになります(例:家事、勉強、仕事など)。【例文】
「困っている人を助けるのもイバーダのひとつです。」
「料理を作るのも、誰かのためならイバーダになるんだよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
まき散らすもの章(Adh-Dhāriyāt)(51:56)
“وَمَا خَلَقْتُ ٱلْجِنَّ وَٱلْإِنسَ إِلَّا لِيَعْبُدُونِ”
「わたしはジンと人間を、ただわたしを崇拝させる(イバーダさせる)ために創った。」
ウ
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【直訳】
訪問・巡礼。日本語では小巡礼とも訳されます。【意味】
ラマダーンなど特定の時期以外に行う巡礼(メッカ訪問)。【補足】
ハッジ(大巡礼)とは別に、一年中いつでも行ける巡礼で、心を清める大切な礼拝行為です。【例文】
「両親は来月ウムラに行く予定です。」
「ウムラは心のリセットみたいなものだと感じました。」【クルアーンにおける登場箇所】
雌牛章(Al-Baqarah)(2:196)
“وَأَتِمُّوا۟ ٱلْحَجَّ وَٱلْعُمْرَةَ لِلَّهِ”
「アッラーのためにハッジとウムラを完全に果たしなさい。」
ク
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【直訳】
朗唱されるもの、読まれるもの
【意味】
イスラームにおける聖典。
アラビア語でアッラーが最後の預言者ムハンマド様に啓示した言葉を記録したもの。【補足】
クルアーンは114の章(スーラ)と約6,236の節(アーヤ)から構成され、その内容は信仰、法律、道徳、歴史、自然現象など多岐にわたります。
ムスリムの日々の祈りや行動、学びの根本となる存在です。※クルアーンをアラビア語以外の言語に翻訳したものには翻訳者の主観が入ることが避けられないため、これは「意味の解釈」であり、クルアーンそのものではないとされます。
【クルアーンにおける登場箇所】
夜の旅章(Al-Isra)(17:82)
وَنُنَزِّلُ مِنَ ٱلْقُرْءَانِ مَا هُوَ شِفَآءٌۭ وَرَحْمَةٌۭ لِّلْمُؤْمِنِينَ
「わたしたちはクルアーンの中に、信仰者にとって癒やしと慈悲となるものを下した。」
サ
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【略表記】
ﷺ、PBUH(Peace be upon him)
【英語表記】
Ṣallā Allāhu ʿalayhi wa sallam
【直訳】
「アッラーが彼(預言者さま)に祝福と平安を与えられますように」【意味】
預言者ムハンマド様のお名前を口にした際に添える敬意表現。預言者ムハンマド様以外の他の預言者には「ʿalayhi al-salām(平安あれ)」を用います。
預言者に対する愛と敬意、アッラーからの祝福を願う気持ちを込めて使われます。【補足】
口頭では「サッラッラーフ・アライヒ・ワサッラム」と言い、書き言葉では記号「ﷺ」や略語「PBUH(英語: Peace Be Upon Him)」が使われます。話し手だけでなく、聞き手も預言者の名前を聞くと、これを口にすることがよくあります。
【例文】
「預言者ムハンマド様 ﷺ は断食明けにデーツを食べておられた。」【クルアーンにおける登場箇所】
この表現自体はクルアーンの中には登場しませんが、その意味を支える重要な一節があります。部族連合章(Al-ahzab)(33:56)
إِنَّ اللَّهَ وَمَلَائِكَتَهُ يُصَلُّونَ عَلَى النَّبِيِّ ۚ
يَا أَيُّهَا الَّذِينَ آمَنُوا صَلُّوا عَلَيْهِ وَسَلِّمُوا تَسْلِيمًا
「アッラーとその御使いたちは預言者に祝福を与える。信仰する者たちよ、預言者に祝福と平安を祈りなさい。」
ムスリムが預言者ムハンマド様の名前を聞くたびにこの祝祷を捧げる習慣は、この節に由来しています。
シ
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【直訳】
悪魔、ささやく者【意味】
人に悪いことをさせようとする存在。心の中にそっとささやいてくる。【補足】
自分の中の弱さや怒りなども、シャイターンの仕業とされることがあります。【例文】
「イライラしたとき、シャイターンのささやきに気をつけてるよ。」
「困ったときこそ、シャイターンではなくアッラー(SWT)に頼るようにしてる。」
【クルアーンにおける登場箇所】
雌牛章(Al-Baqarah)(2:208)
“فَلَا تَتَّبِعُوا۟ خُطُوَٰتِ ٱلشَّيْطَـٰنِ”
「シャイターンの足跡を追ってはならない。」
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【直訳】
証言・宣言。日本語では信仰告白とも訳されます。【意味】
アッラー(SWT)は唯一の神であり、預言者ムハンマド様ﷺがその使徒であると信じて告白すること。イスラームに入るための第一歩。【補足】
「أشهد أن لا إله إلا الله، وأشهد أن محمدًا رسول ال(アシュハド アン ラー イラーハ イッラッラー、ワ・アシュハド アンナ・ムハンマダン ラスールッラー
日本語訳:私はアッラー(SWT)のほかに神はなく、預言者ムハンマド様ﷺが神の使徒であると証言します)」という言葉がシャハーダにあたります。【例文】
「彼はシャハーダを唱えてイスラームに入信しました。」
「シャハーダは、心からの信仰のあかしです。」【クルアーンにおける登場箇所(概念として)】
イムラーン家章(Al-Imran)(3:18)
شَهِدَ اللَّهُ أَنَّهُ لَا إِلَٰهَ إِلَّا هُوَ...
「アッラーは、『かれのほかに神はない』と証された(シャヒダ)。」
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【直訳】
隠されたもの、目に見えないもの【意味】
人間と違う存在で、火から作られたとされる霊的な存在。善いジンも悪いジンもいる。【補足】
クルアーンにも登場します。オカルトではなく、信仰的に認識されているもの。【例文】
「ジンは見えないけれど、実在すると信じられているよ。」
「子どもたちの間で、こわい話のときに“ジンかも”ってよく言われてる。」【クルアーンにおける登場箇所】
ジン章(Al-Jinn)(72:1)
“قُلْ أُوحِيَ إِلَيَّ أَنَّهُ ٱسْتَمَعَ نَفَرٞ مِّنَ ٱلْجِنِّ”
「ジンの一団がクルアーンを聞いていたと啓示されたと言いなさい。」
ス
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【略表記】
SWT(英語:Subhanahu wa Ta'ala)
【直訳】
彼(アッラー)の栄光は完全であり、彼は高みにおられる【意味】
イスラームにおける、アッラー(神さま)を称える敬語表現。アッラーのお名前を口にした後、神の完全性・崇高さを認めて敬意を表す語として用いられます。
特に書き言葉では「SWT」と略記されることが多いです。【補足】
これはアッラーだけに使う敬称で、人間や預言者に対しては用いません。【例文】
「アッラー(SWT)は万物を創造された。」
「クルアーンには、アッラー(SWT)がそうおっしゃったと書いているところがあるね」
【クルアーンにおける登場箇所】
“سُبْحَانَهُ وَتَعَالَى”という表現そのものではなく、”سُبْحَانَهُ / 彼に栄光あれ”と”تَعَالَى / 彼は高みにおられる”に分かれて多く登場します。
例:
アッラーの栄光を讃える表現(スブハーナ)夜の旅章(Al-Isra)(17:1)
سُبْحَانَ الَّذِي أَسْرَىٰ بِعَبْدِهِ لَيْلًا
「夜のうちにそのしもべ(ムハンマド)を導き行かれた方に栄光あれ。」
高みにおられるお方(タアーラー)
蜜蜂章(An-Nahl)(16:1)
تَعَالَى اللَّهُ عَمَّا يُشْرِكُونَ
「アッラーは彼らの崇拝するものからは遥かに超越しておられる。」
ト
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【直訳】
祈り、呼びかけ【意味】
アッラー(SWT)に願いを伝えたり助けを求めたりする、個人的なお祈り。【補足】
礼拝とは別に、日常の中で自由にできる「お願い」のような祈り。言語はアラビア語でなくても大丈夫です。【例文】
「試験の前にドゥアーをしました。」
「つらいときは、心の中でドゥアーをするようにしています。」【クルアーンにおける登場箇所】
雌牛章(Al-Baqarah)(2:186)
“أُجِيبُ دَعْوَةَ ٱلدَّاعِ إِذَا دَعَانِ”
「わたしは祈る者の祈り(ドゥアー)に応える。」
ニ
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【直訳】
結婚【意味】
イスラームにおける結婚の契約。夫婦になるための正式な手続き。【補足】
宗教的な儀式をともなう契約で、両家や証人が立ち会い、アッラー(SWT)の前で約束を交わします。【例文】
「来週、モスクでニカーの式を挙げます。」
「ニカーはふたりの責任と信頼に基づいた結びつきです。」【クルアーンにおける登場箇所】
女性章(An-Nisāʾ)(4:3)
فَانكِحُوا مَا طَابَ لَكُم مِّنَ ٱلنِّسَآءِ
「(好ましい)女性と結婚しなさい(niḥkū)」
ハ
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【直訳】
よいこと、善行【意味】
アッラー(SWT)の目から見てよい行い。報いとして記録される“善きポイント”のようなもの。【補足】
人に優しくしたり、祈ったりするたびに、ハサナートが増えるとされます。【例文】
「今日はゴミ拾いをしたから、ハサナートがもらえたかな?」
「誰にも見られていなくても、良い行いはハサナートとして記録されるよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
解説された章(Fussilat)(41:34)
“ٱدْفَعْ بِٱلَّتِي هِيَ أَحْسَنُ فَإِذَا ٱلَّذِي بَيْنَكَ وَبَيْنَهُۥ عَدَاوَةٞ كَأَنَّهُۥ وَلِيٌّ حَمِيمٞ”
「善によって悪を返せ。すると敵でさえ、親しい友のようになる。」
※「ハサナート」という言葉は複数形であまり登場しませんが、ハサンといった同じ意味の関連語として多用されています。
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【直訳】
語り、伝承【意味】
預言者ムハンマド様ﷺの言葉や行いを伝えた記録。イスラームの生き方のお手本。【補足】
クルアーンと並んで、生活の中でどう行動すべきかを知る大切な資料。【例文】
「その行い、ハディースにある“笑顔も施し”っていう教えにぴったりだね。」
「ハディースを読むと、預言者様のやさしさが身近に感じられるよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
星章(An-Najm)(53:59–60)
“فَبِأَيِّ حَدِيثِۭ بَعْدَهُۥ يُؤْمِنُونَ”
「この後で、どんな話(ハディース)を信じるというのか。」
※ここでの「ハディース」は広義の「話・物語」の意味で、預言者の言行録としての後世の用語ではありません。
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【直訳】
禁じられた、禁止された【意味】
イスラームの教えで禁じられていること。やってはいけない行為や摂ってはいけない食べ物など。【補足】
食べものだけではなく、行動・経済活動・服装など多岐にわたって使われます。【例文】
「豚肉はハラームだから、食べないようにしているんだ。」
「人をだますことは、ハラームとされているよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
雌牛章(Al-Baqarah)(2:173)
“إِنَّمَا حَرَّمَ عَلَيْكُمُ ٱلْمَيْتَةَ وَٱلدَّمَ وَلَحْمَ ٱلْخِنزِيرِ”
「本当に禁じられているのは、死肉と血液と豚の肉…」
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【直訳】
許された・合法な・許可された【意味】
イスラームの教えに照らして許されたもの。【補足】
食べ物だけでなく、行動・経済活動・服装など多岐にわたって使われます。【例文】
「この食事はハラール(食べても問題ない)ですか?」
「ハラールかどうかを大切にして服装を選んでいるよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
雌牛章(Al-Baqarah)(2:168)
“يَا أَيُّهَا النَّاسُ كُلُوا مِمَّا فِي الْأَرْضِ حَلَالًا طَيِّبًا...”
「人々よ、大地にあるもののうち、ハラールで良きものを食せ...」
ヒ
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【直訳】
覆うもの、カーテン【意味】
ムスリムの女性が髪や身体を覆うためのスカーフや服装のこと。【補足】
「隠すこと」だけが目的ではなく、礼儀や信仰心の表れでもあります。【例文】
「彼女は外出するときにヒジャブを身につけています。」
「ヒジャブは自分の信仰を大切にする気持ちのあらわれです。」【クルアーンにおける登場箇所】
部屋章(Al-Aḥzāb)(33:53)“وَإِذَا سَأَلْتُمُوهُنَّ… مِن وَرَآءِ حِجَابٍ”
「(預言者の妻たちに)頼むなら、覆いの向こうから頼むように」
※ヒジャブ は最初は「覆い」「仕切り」を意味し、後世の解釈を経て「スカーフ文化」として定着しました。
マ
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【直訳】
アッラーがお望みになられたこと(です)
【意味】
「すばらしい!」「なんて素敵なの!」という賞賛や感嘆を、アッラーの意志に帰して表すイスラーム的な言い回し。【補足】
誰かの成功、美しさ、幸せなどを目にしたときに使われる言葉で、「これはアッラーの御意志によるものだ」という敬意や感謝を込めた表現。うらやましい気持ちや妬みを避けるためにも用いられ、相手を称賛する時のマナーともされます。
日常的に非常によく使われるフレーズです。【例文】
「娘さんはもうすぐ5歳になられるのですね!マーシャーアッラー!」
「あなたのお料理、マーシャーアッラー、とても美味しいですね。」
【クルアーンにおける登場箇所】
洞窟章(Al-Kahf)(18:39)
وَلَوْلَا إِذْ دَخَلْتَ جَنَّتَكَ قُلْتَ مَا شَاءَ ٱللَّهُ لَا قُوَّةَ إِلَّا بِٱللَّهِ
「あなたが自分の園に入ったとき、『マーシャーアッラー』と、どうして言わないのですか。」
※この節では、自分の所有物や成功を誇るよりも、それがアッラーの御意志によって与えられたものだと認識することの大切さが説かれています。「マーシャーアッラー」はその精神を反映する重要なフレーズです。
モ
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【直訳】
礼拝する場所【意味】
ムスリムが礼拝を行う場所。心を静めて祈る場所で、地域の集まりの場にもなる。【補足】
金曜には特別なお祈り(ジュムア)があり、モスクには多くの人が集まります。【例文】
「モスクでみんなと一緒に礼拝するのが楽しみなんだ。」
「旅行中でも、近くにモスクがあれば立ち寄るようにしてるよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
ジン章(Al-Jinn)(72:18)
“وَأَنَّ الْمَسَاجِدَ لِلَّهِ فَلَا تَدْعُوا مَعَ اللَّهِ أَحَدًا”
「モスク(マサージド(マスジドの複数形))はアッラーのものである。それゆえ、アッラーの他に誰も呼び求めてはならない。」
ラ
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【直訳】
灼熱の月(もとの語源)【意味】
イスラーム暦の9番目の月で、断食(サウム)を行う神聖な月。【補足】
夜明けから日没まで飲食を断ち、心と身体を清める期間。終わると「イード」というお祝いがあります。【例文】
「ラマダーン中は日中の飲食を控えて、心を整えるんだ。」
「ラマダーンが終わったら、家族みんなでごちそうを囲んでお祝いしたよ。」【クルアーンにおける登場箇所】
雌牛章(Al-Baqarah)(2:185)
“شَهْرُ رَمَضَانَ ٱلَّذِيٓ أُنزِلَ فِيهِ ٱلْقُرْءَانُ”
「ラマダーンの月、それはクルアーンが下された月である。」